THORNY PATH


Odai

ショコラ



甘さも苦さも

2009 St.Valentinday




 甘いような苦いような…複雑な匂いが部屋に立ち込める。
 何やっているのかと思いながらコートとスーツを脱いで台所を覗き込み……目を見開く。
「…何やってんだ?」
 ぱちくりと目を瞬かせながら尋ねると、にこりと浮かぶ笑み。
「夕飯を作ってるけど?」
「夕飯って……」
 見下ろすとでん、と皿に乗っている肉。
 だがその上からかけられているのは……見覚えのあるチョコレート。
「…肉にチョコって…」
「厳密にはこれはチョコレートソースじゃないけどね」
 シンのにこやかな声に顔を上げる。
「見るからにそうなんだけど…」
「これはモレっていうメキシコのソースで、何種類もの香辛料が使ってあるから甘さは無いよ」
 シンの言葉に嘘はない。
 だがイマイチ信じられないので凝視してしまうと、シンから笑い声が漏れる。
「思った以上に味わいあって美味しいんだから食べてみてよ」
 シンは笑いながらそう告げると、皿を取ってテーブルに置く。
「今日はバレンタインだからはりきって作ったんだ」
「……素直にデザート作らない所がシンらしいよな」
 変に捻くれていると思わず感心しながら手に持っている箱を取り出す。
「ダニー?」
「バレンタインだからケーキ買ってきた」
 思いがけない言葉に明るい顔をする。
 だがすぐに顔を曇らせ、
「――彼女には良かったの?」
「…独り身だってシンが一番知ってるだろ」
 じゃなかったらここには戻らず今頃は外でディナーだろ。
 わざと気を悪くする素振りを見せると、シンは慌てて謝罪を口にする。
「じゃあ、ケーキを楽しみにしながら夕飯にしようか」
「そうだな」
 シンの言葉にダニーも頷くと、共に夕飯の準備を行った。




 夕飯にはモレの肉料理を。
 食後にはケーキを。

「美味いな」
「本当」

 この日は甘さも苦さも……チョコを美味しく味わう一日であった。