Odai幸運な愚者あなたの自由とは?A suitor from darkness. (2004〜)
男が、いた。 それだけなら特に気にしない。 だがここが殺人現場であれば別だ。 「おい、あんた」 鞄を持ち直しながら苛立ちまぎれに声をかけると、男は振り向く。 そこには誰もが魅了される美貌がある。 (あいつとはまた違ったタイプだな) だがスピードルは大した感慨も無さそうに歩を進める。 「ここは殺人現場でまだ立ち入り禁止だ。――あの黄色いテープが見えないのかよ」 「…ああ、ごめんなさい」 にこりと男は笑って少しも申し訳なさを感じない謝罪を口にするとスピードルへ歩み寄る。 「でもここにいれば渡せると思ってね」 「何を」 訝り問いかけようとしたところで眼前に差し出される赤。 「チューリップ?」 「そうだよ」 すっと白い手がスピードルの頬に触れる。 「花言葉は恋の宣言と愛の告白」 素敵でしょ? 輝く笑顔を浮かべられるが、笑いかけられたほうは不快そうに顔を顰める。 「……そういうことは好きな奴にやれ」 仕事の邪魔をされたこともあって格段に低い声で告げる。 すると男は不思議そうに首を傾げ、 「だから君に渡してるんだよ。ティモシー・スピードル」 突然の指名に加え呼ばれる名。 スピードルが驚きに目を開いている中、軽い音と柔らかい感触が頬から感じる。 「っ!?」 突然のことに慌てて身を引く。 だが、いつのまにか腰に腕を回され体が固定されている。 「うん。やっぱり抱き心地がいい」 「離せ!」 「嫌だよ」 今度は米神に感触。 「――だから触るな」 益々目を険しくさせて睨み付ける。 だが男はそれに益々嬉しそうに笑いながら形の良い指でスピードルの唇をなぞる。 「愛してるよ。ティモシー」 「……オレは男だ」 「うん。そうだね」 でもそれが? 潔すぎる笑顔と言葉にスピードルは呆れたような目を向ける。 「…お前趣味悪いな」 その表情と言葉に愉しそうな笑みがこぼれる。 「本当、面白いね」 こんな状況なのに嫌悪も恐怖も浮かべない。 普通の人間ではありえないこと。 だからこそ、彼は『紅い牙』の目に留まり、自分もまた彼にこの感情を注いでいる。 「…このまま、君の全てを浚っていきたいんだけどね」 浚って閉じ込めてべたべたに愛したい。 だが残念なことに、彼の後ろには美しいながら棘どころか巨大な牙を持つ愛しき人がいる。 「だから今はこれだけ」 するりと外れる枷。 スピードルは、目を数回瞬かせると、離れたところにいる男を見る。 「私はエディ・L・シューレン」 長き異端と犯罪者と追われ続けるもの。 「君を愛しい人を浚った後に迎えに行くからそれまで待っててよね。ティモシー」 愛してるよ。 男はにこやかにひらりと手を振ると歩き去っていった。 その背中を見送ったスピードルは、目を瞬かせ、 「有名な犯罪者が何でオレなんかを好きになるんだ」 心底不思議そうに呟いた。 本気だと知らない、今 |