THORNY PATH


Main

愛情過食症

S1ー1後。お祝いを
(2005)




 帰宅し着替えていると電話が来たことを知らせるサインが鳴る。
 ギデオンは首を少しだけ傾げながら近寄ると、受話器を手に取り耳へ当てる。
「もしもし?」
『――お久しぶりです。ジェーソンさん』
 耳に心地よい声が響く。
 ギデオンは目を瞬かせると、すぐに唇を綻ばせる。
「ああ。久しぶりだな。シン」




『良かった。お帰りになっていたのですね』
 電話越しだが明らかに心地よいと感じさせる声。
 ギデオンは椅子を手繰り寄せると座り、ゆっくりと目を瞑る。
 脳裏に浮かぶは性別を超えた絶大なる美。
 だがそこには棘どころか巨大な牙を秘めている。
「電話とは驚いたよ」
 いつも手紙か直接会いに来るのが殆どな彼が電話とは珍しい連絡手段だ。
『本当は会ってお話したかったんですが……待ちきれなくて…こうやってお電話いたしました』
「何かあったのか?」
 訝り、問う。
 すると、
『現場復帰おめでとうございます』
 耳に響く祝いの言葉。
(流石に早い)
 FBIで自分に査定がかけられたことは一部しか知られていないことなのだが…
「まだ査定がすんだばかりだぞ」
『犯人は逮捕された上に被疑者は生存している。能力に衰えが無いと認められますよ』
「そこまで知ってるか」
 報道で発表されるのは明日なのに彼が知っていることに苦笑しか浮かばない。
「だが…リーダーには戻れないだろう」
 一介のプロファイラーとしてなら問題ないとしても一度失敗し心を病んだ人間にリーダーを任せるのは不安が残る。
 そしてその不安を残したまま請け負わせるのは上層部が許さないだろう。
『私としてはそちらの方が嬉しいです』
「そうか?」
 意外な言葉に驚きながら少し首をかしげると、
『はい。私は自由に仕事をするジェーソンさんが好きですから』
 真剣に向き合い、犯罪を突き止める。
 それでいて組織と言うものに囚われずに考え、動く姿。
 幼い頃に見たその人の姿が好きだったと告げると、ギデオンの目が少し遠くなる。
「そう…だな。今の内に自由に行えるのなら行わないとな」
『…』
 その声に実感が篭るのを感じ取り、受話器から沈黙が入る。
 彼もまた、その気持ちがわかったから。
 世代は違えど、深い――暗い絶望と憤怒を無理矢理抱えさせられ、その感情から生み出された鎖に捕らえられている者同士。
 解らない、はずが無かった。
『――ジェーソンさん』
「ん?」
『明日、一時間…いえ十分くらいお時間をいただけませんか?』
 急な言葉に驚きながら問いかけると、
『やっぱり会って言いたいです。……駄目なら…諦めます』
 僅かに落ち込んだ声音。
 その向こうで漆黒の瞳を翳らすことが容易に想像できて思わず苦笑を浮かべる。
 あの美貌を利用すればどんな願いも他者より引き出し思いのままにすることだって可能なのに彼は幼い頃から甘えることが苦手で、いつも控えめに申し訳なさそうなのだ。
 それが逆に何でも叶えてあげたくなることを本人は気づいてすらいない。
(そこが愛すべき…なんだろうな)
「明日は午前中に講義が一時間だけだからその後なら問題ない。…間に合うならランチを一緒にしようか」
 オレでよければ、だが。
 ギデオンの言葉に受話器越しでも解る明るくなる声。
『何が何でも間に合わせます!!』
 だから一緒にランチしましょう。
 にこにこと満面の笑顔を浮かんでいることが容易く知れる弾んだ声に思わず笑顔を浮かべながら別れの挨拶をすると、受話器を置く。
「明日…か」
 久しぶりにあう青年の姿を思い浮かべ久しぶりに愉しげに呟いた。







 だが暫くして彼をどの店へ連れて行くか検討が付かず、明日の午前中まで悩むのだがそれは今現在は知らないお話。