THORNY PATH


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春を葬う花の雨

連載八話目。彼の正体。
(2004)




「表向きはどうであれ、悠々自適の生活を送っていますよ」
 シンがにこりと浮かぶ笑みは綺麗だが恐ろしいくらいに殺気じみた怒気がある。
 一人の人物から発せられる空気の震えに数人の顔が引き攣る。
「…随分と詳しいな」
「………世界で一番嫌いで正直関わりたくないんですが…今はもう亡き後見人と11世が殺伐とした関係だったので」
 目から敵意も怒気も消え、ただにっこりと浮かぶ美しい笑み。
 その表情からは感情は読めない。
「なので11世と共に居た12世ともそれなりに顔を合わせていました。……困ったことに12世はよく私に接触してくるんです」
 それでFBIやCIAによって密かに周囲を見張られているという。
 一番傍にいて全く知らなかったダニーは顔を顰める。
「…聞いてない」
「大丈夫。盗聴器や発信機は無いし。見張りも最低限にさせてもらっていて邪魔な時はきちんと撒いてるから」
 正確にはそうするように脅した、だけど。
 シンは頭の中で思った不穏な言葉は表に欠片も出さずに押しやるとダニーに安心させる笑みを向ける。
 それでも知らなかったことが嫌なダニーはあまり納得していない表情をするが、
「……だが何故、そう頻繁に接触がある」
 マックの言葉にダニーの思考も変わる。
「それにお前の所に贈られる黒いバラもそいつなんだろ?」
 そして接触がある前にシンから聞いた事実を告げると、シンの表情が心底嫌そうなものになる。
「……あまり言いたくないんですけど…」
「言えない理由でもあるの?」
 エイデンが問う。
 それにシンは首を横に振って否定する。
「……ただ事実から目を逸らしたいだけです」
 シンはそう言うと、出してくれて一口も飲んでないコーヒーに口を付け、ソーサーに置くとゆっくりとメンバーを見渡し、


「……実は…私は彼に求婚されているんですよ」


 時が、止まる。
「……………マジ?」
「残念ながら」
 問うと、重々しく帰ってくる答え。
「…子供の頃は好きだと愛してると言われても戯れだと思ってたんですが…16歳の誕生日に家宝の指輪を出されてプロポーズされたんです」
「ど、どうしたんだ!?」
 硬直から解けたフラックが勢い込んで尋ねると、「勿論断りました」と返答する。
「今後も受けるつもりは無いんですが……向こうも諦めなくて」
 シンは嫌そうにそう言うと、突然立ち上がってダニーの手を取る。
「…シン?」
「ダニー。恐らく今後、彼は貴方にも接触してくるからその時は躊躇無く急所を撃ってね」
 真剣な目で見つめられ、ダニーは圧倒される。
「な、何でオレにも接触してくるんだよ」
「……それは…ダニーは私の友人で彼も気に入ったから…だね」
 真実を言うのは少し憚れるのでシンはあえてぼかした言葉を告げる。
 ダニーはそれに首をかしげ…あの男との会話を思い出す。
 彼は確か、美味しそうと言いシンを手に入れてから手を出すと言っていた。
「あー…食料にされるってことか」
 人食嗜好という点からそう問うが、シンは否定する。
「……言いづらいんだけどね」
「何だよ」
「…そういう意味よりも比喩的表現で使われる意味の方だと思う」
 シンの少し遠まわしな言葉にみんなは意味を考え……その意味を理解した途端、ダニーの顔が青ざめる。
「愛してるのはお前だろ!?」
「シューレン家は大抵パイセクシャルで、本妻の他に愛人も居るのが普通らしいよ」
 そして変わった事に歴代の本妻も愛人も仲がよく、作った人間も両方を愛し大切にするのが普通らしい。
 そのことを告げると、益々ダニーの顔色が悪くなる。
「…因みにオレだけか」
「…ううん。ダニーをいれて五人だよ」
 その顔ぶれを思い出すと自然と漏れる溜め息。
 ここで言いはしないが、その顔ぶれの中には義兄のグリッソムとマイアミにいるスピードルも入っている。
 彼らは……自分が関ってしまったが故に起こったことだ。
 シンはすまなさそうに謝罪を口にする。
 ダニーはそれに顔色が悪いながらも不快そうな表情をする。
「さっきも言ったけど、お前の友人になることは自分で選んだんだ。悪いのはあいつであってお前じゃないだろ」
 だから謝られる道理は無い。
 ダニーはきっぱり返答するとシンは驚きに目を開き――笑った。
「ありがとう。ダニー」