Main春を葬う花の雨
連載七話目。彼の正体。 (2004) テーブルに置かれる紙切れ。 「説明してもらおう」 マックの重く迫力のある声がミーティングルームに響く。 マックの他にも彼の部下であるステラ、ダニー、エイデン。 そして事件を聞いて慌てて戻ってきたフラックがいる。 みんなに視線を向けられている人物――シンは常と変わらない穏やかな笑みを浮かべ、テーブルの紙切れを見る。 「DNAの結果ですか?」 「ああ。調べた結果…ハンカチの血は今回の事件の被害者だった」 その報告をここで始めて聞かされたCSIとフラックは驚愕の表情を見せる。 だがシンは軽く息を吐くだけ。 その表情にマックの眉間に皺が寄る。 「知っていたのか」 「誰かの血であることは予想していましたが……何せ事件を知る前に得たものでしたので」 『彼女』であることは解らなかったとシンは言う。 「これはどうやって手に入れたものなんだ?」 フラックの問いにシンは彼に顔を向ける。 「昨夜あの男に襲われたときに付いたんです」 「襲われたって…」 「私は大したことはされていません。ただ…」 シンの視線がダニーを見る。 「ダニーを巻き込んでしまいましたのは申し訳ないことです」 「オレは何もされてない。それよりもお前は首絞められてたじゃねぇか」 「殺す気は無かったよ」 あの男の目的からしてそうではないのだ。 「あれはダニーを間近で見たいから私を足止めしただけ」 すうっと細める目に宿るはここにいない人間に対する敵意。 その気配を敏感に感じ取った者達は僅かに息を呑む。 「…一体、あれは誰だ」 マックの問いかけにシンは敵意を解いて少し可笑しそうな、イタズラめいた笑みを見せる。 「お名前を聞けば知っていると思いますよ」 「何?」 「有名ですから。大分前から知られていますし……14年前にも騒がれましたから」 シンは一瞬だけ目を伏せるが、すぐに上げるとこちらを見つめる視線を見渡し、 「彼の名前は…エディ・L・シューレン12世。――『シューレン伯爵』『人喰いシューレン』とも呼ばれている一族の現当主です」 『――っ』 シンが常と変わらない口調で言う言葉。 だがそれに面々は驚愕の声をあげ、または息を呑んだ。 エディ・L・シューレン。 シューレン家当主であることを表す名前である。 そのシューレン家はかつてはある国で伯爵の地位も貰ったことがある名家であったらしい。 だが、その一族が有名なのは伯爵であったという経歴ではなく、彼らの嗜好にあった。 彼ら一族はカニバリズム――人食嗜好者であった。 そしてその嗜好のために世界中のどこでも、誰であろうとも人を殺し食す。 そのことからICPOによって指名手配されているが、今まで一人しか表舞台に出てきていない。 話では彼ら一族には色んな理由で心酔し忠誠を誓っている心棒者が世界中に存在していると言う。 「…まだ若いじゃない」 「幼い頃に両親が死に別れていますから祖父から14年前の事件前に譲り受けているはずです」 シンの言葉に浮かぶは当時テレビや新聞で話題になった事件。 14年前――1990年。 エディ・L・シューレン11世が突然ホワイトハウスで職員や議員を殺害し食すという前代未聞の事件が起こった。 大量に食し、飾られた数多の遺体に床一面に血だまりが起こり見たものは見惚れると同時にあまりの悲惨さに気絶したという。 その場にいた11世は大人しく拘束され、現在はその異常性から精神病院で時を過ごしている。 しかし今現在でも色んなことに口を閉ざしている彼は、どうやって厳重な警備や職員や議員の目から逃れ、また何時間も気づかれること無く殺害し食したのかは今でも謎とされている事件であった。 |