THORNY PATH


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春を葬う花の雨

連載六話目。的外れな謝罪と怒り。
(2004)




 金髪に薄桜色の目。
 難なく警察の前から消えた男は細い路地裏に姿を現す。
「マスター」
 そこにかかる凛とした声。
 男は悠然と視線を向ける。
 彼の視線の先――そこに薄い茶髪にアクアマリンの瞳をした執事姿の美女がいた。
「お迎えにあがりました」
「ああ」
 女性の丁寧な一礼に男は悠然と歩く。
「警察に野バラがいた」
 つりあがる形よい唇。
 それに彼女の瞳に柔らかな光が浮かぶ。
「それは宜しゅうございました」
「準備は?」
「――予定通り準備は出来ております」
「行くぞ」
 男の言葉に女性は一礼すると、裏路地から抜ける。
 するとそこに停止している最高級のメルセデス・ベンツに女性の導きにより乗り込んだ男は優雅な動作で足を組む。
 女性は当たり前のようにアルコールの入ったグラスを渡す。
「ダニー・メッサー様はいかがでしたでしょうか?」
「他のものと違った意味で稀有だ。昨日といい今日と言い、野バラに一番立場が近い人間だよ」
 自らその狭間に立つことを選んだ人間。
 生い立ちも進んできた世界も違うが、そこだけは共通している。
「恐らく一番に話す可能性があるだろうな」
「それは…確かに稀有と言うべき方でございましょう」
 女性は驚きをもって同意を示す。
「知ったとき彼は恐怖に負け拒絶するのかな?」
 それとも、
「あの手を掴み続けるのかな?」
 楽しげに嗤いながら彼はグラスに口を付ける。
 それに彼女は何も言わずに微笑んだ。






「失礼します」
 検死室に響く声。
 それに顔を上げたホークスは、珍しい姿に目を瞬かせる。
「シン? それにダニーも」
 一体どうしたんだ?
 ホークスが問いかけるが、ダニーも解らないので首を横に振る。
 しかも自分はあの現場の捜査をしなければいけないというのに強引に連れて行かれてしまい、思わず棘のある視線を向ける。
「シン! いい加減に説明しろよ」
 ダニーの強い口調にシンは貼り付けていた笑みを消して「そうだね」と呟く。
「ダニーには話しておいた方がいいよね」
 シンは振り向くと手を伸ばしてダニーの頬に触れる。
「私の所為でダニーが目を付けられたんだし」
 苦しそうな悲しそうな顔をする。
「…ごめんな」
「――オレはお前と居ることを自分で選んだんだ。それなのに謝るのか」
 鋭い眼光を宿したダニーの詰問にシンは彼を侮辱させたも同然だと感じて謝罪する。
「ごめん」
「悪いと思うなら、オレが関わるなら、全部話せよ。昨夜のこともあの男のことも」
「…うん」
 シンが嬉しそうに笑う。
「私を望んでくれたダニーなら喜んで」
「……お前…」
 まるで告白のような言葉に、言われたダニーと見ることになったホークスは顔を赤くした。

「…取り込み中すまないが…その話は我々も聞きたいな」

 そこに上がる声に振り向くと検視室の入り口に見覚えのある貫禄の姿。
「マ、マック!」
 疚しいところは無いが妙に気恥ずかしい。
 ダニーは慌てた声を出すが、シンはゆったりと綺麗な笑みを浮かべる。
「貴方方の場所にお邪魔しましたね。すいません」
「君は荒らしはしないだろう。それより話してくれないのか?」
「FBIの方にお聞きしたらいかがですか?」
「彼らは君に聞けといって去って言ったよ」
 職務怠慢ですね。
 後で文句でも言ってやろうと心に誓いながらシンは漆黒の目を細める。
「…仕方ありませんね。今朝ダニーに頼んだDNA検査結果が出たらお話します」
「…検査結果、だと?」
 そんな話は聞いていないので訝る表情を浮かべるマックにシンがハンカチに付いた血を検査をお願いしたのだと言う。
「それが今回のことと関係でもあるのか」
「…残念ながらありますよ」
 シンは冷笑を口元に彩らせる。
「…それも結果が出たら解るでしょう」
 だがあえて確かなことは言わずに美しいだけにその冷たさが伝わる表情を見せ続けた。