THORNY PATH


Main

春を葬う花の雨

連載四話目。混乱の中で優雅に立つ張本人。
(2004)




 悲鳴があがり、人の動きが騒がしい。
 だがその騒動を起こした当人は周りの騒動など耳に届いていないかのように手にべっとりと付いた血を舐め、
「不味い」
 冷酷に言い捨てると、手を思いっきり振って血を飛ばす。
 だがそれで取れるはずも無く、男は不快そうな表情で遺体に向ける。
「動くな!」
 そこにかかる鋭い声。
 三人の視線がそちらに向くと銃を構えたマック。
「マック!」
 ダニーが声をあげるとマックの視線が一瞬ダニーを見る。
 その頼りになる姿勢に、ダニーの心に安堵が生まれる。
「両手を頭の上に乗せて跪け!」
 マックがさらに言い募る。
 だがそれに男は目を瞬かせると…落胆の表情を見せる。
「警察の定番だ。いつもいつもそうやって私に銃を突きつけてくる」
 男は気にした様子も無く遺体のシャツで手を拭うと、ぐるりと見渡す。
 そこにはマックと同じように銃を突きつけている警官たち。
 だが男は恐れずに不愉快そうにその瞳に冷酷な瞳を見せ、
「目障りだ」
 低い声音と共にヒュンッと鋭い風きり音がしたと思うと……警官達の銃が次々と真っ二つになる。
 警官達はそれに戸惑いの声をあげる。
「私と野バラの邪魔をするのは許さない。入っていいのはこの世に五人だ」
 男は冷酷にそう言い捨てると、シンとダニーの方へ向き直る。
 彼は二人にだけは、にこりとこんな事が無ければ美しいと思わせる笑みを浮かべる。
「騒がしいから場所を変える?」
「結構です。貴方と長く話すつもりはありませんから」
 それに、
「――貴方のお迎えが来ましたよ? 『グラトニー』」
 シンの言葉に男が振り向くと、黒い車。
 そしてあわただしく出てくる黒いスーツの男達。
「諦めないなぁ」
「彼らが諦めたら存在の意味すらないでしょう」
「はは。辛辣だ」
 くすくすと漏れる声に男は笑い――シンの頬に手を伸ばす。

 ヒュッ!

 だがその触れる直前にシンが跳ね上げた黒い杖によって阻止され、男は半身ずらすことで避ける。
「流石、私が愛した野バラだ」
「貴方の愛は興味ありません」
 シンの目が鋭く射抜くのを笑みで受け止めるが、何故かすぐにダニーを一瞥する。
 その目に恐れを抱きながらも睨みつける。
「…何だよ」
「やっぱり稀有だなぁって。だから――君が真実を知ったときがすごく楽しみだ」
「? 何言って…」
 男の言葉がわからずに不可解そうな顔をするダニーにシンの男を見る目が鋭くなる。
「『グラトニー』」
 シンの低い声にダニーの背筋に冷たい汗が流れる。
 男は楽しそうに笑い声を漏らすと、何事も無いように二人から離れる。
「待て!」
 それに駆けつけてきた男たちが銃を構える。

 ハラリ

 だがその時、落ちてくる何か。
 何だ?
 顔を顰めてそれが何なのか目を凝らすと、次々と大量に降ってくる。
 思わず手で受け取り観察すると赤い花びらであることがわかる。
 その間にも……それは視界を覆うほどに大量のものとなっていた。
「ふふふ」
 その中で男の声が響き、また銃の発射音。
「はははは」
 だが男の笑い声は続き……薄桜色の目が花びらの雨から覗いてくる。
「…私の野バラ。ダニー・メッサー。どうかよい夢路を」



 男の声が響き終わると同時に、花びらで視界の全てが覆いつくされた。