THORNY PATH


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春を葬う花の雨

連載三話目。二度目の出会い。
(2004)




 少し時は遡る。
 プライベートの電話なのと話の内容を考えてロビーへと出たダニーは道中で取り出しシンの電話番号を呼び出した携帯電話を耳に当てる。
『はい、シンです』
「シン。オレだけど…話があるんだ」
『実は私もあるんだけど…直接会ったほうが早そうだね』
 シンの言葉にダニーが視線を外へと向ける。
 そこには……シンの笑顔。
 ダニーは通話を切ると、外へ出る。
「何か仕事か?」
「…だったらまだ良かったんだけど」
 シンの笑みにダニーは首を傾げるが、すぐに自分の用件を思い出す。
「シン! 前に黒紅のバラが贈られて来たよな」
「あ、うん」
「そのバラの花言葉知ってるか」
「あ…まあ…」
 ダニーの問いかけにシンは嫌そうに顔を顰める。
「贈った相手解ってるんだろ。何で対処をしないんだよ」
 ダニーの不可解という顔と問いかけにシンの笑みに敵意が浮かぶ。
「あの男は…今まで殺そうとしても殺されてくれないんだ」
 そこに浮かぶ色は探偵としてじゃなく裏世界にいる人間としての顔だということに瞬時に気づいたダニーは息を呑む。
 彼がどちらの世界も間近にいたのだとダニーは言わずとも解っていたが、シンは滅多に裏世界の顔をしないしその片鱗を見せない。
 ということは…それほど…って奴だな。
「…どんな奴だよ」
「…ダニーは会ってるよ」
「オレが?」
 シンの溜め息をこぼしながらの言葉に首を傾げると背伸びをしてそっと耳元に囁く。
「そう。…昨夜に」

『こんばんは』

 脳裏に浮かぶ声音に姿。
 ぞわりと背筋を嫌な寒気が駆け抜ける。
「……同一人物?」
「そう」
「…大変だな」
 思わず同情の声をあげてしまい、黒い絹糸を撫ぜる。
 シンは少し嬉しそうな顔をし、ダニーに向かって口を開く。
 だがその一瞬その目に鋭い眼光を宿すと、
「ここで抜くのは不味いんじゃない?」
 横合いからかかる声にダニーはビクリと体を震わす。
 ゆっくりと視線を向けると……昨夜に見た姿。
 金髪に薄桜色の目をした美形。
 昨夜と違うのは血まみれではなく、その優雅な物腰から育ちの良さが見える。
 だがその姿であってもダニーの脳裏には昨夜と同じように危険信号が点滅している。
 ダニーは昨夜は無かった銃に手をかけて引き抜く。
 が、その途中で男に手で押さえられる。
「無闇に抜いちゃダメだよ」
「存在自体が危険な方には最適な対処方法だと思いますけど?」
 目が笑っていない笑顔でシンは言いながら、さり気なくダニーを護るように立つ。
「…まだNYにいたのですね」
「また来るって行ったでしょ」
 くすくすと声を漏らしながらシンを、そしてダニーを見ると楽しげに目を細める。
「…これで五人目。先代に比べたら随分多いね」
「……お気に召さないのでしたら消えてください」
「まさか。全員、あれだけ稀有な存在は珍しいよ。…どれもこれも美味しそうだ」
 ぺろりと赤い舌が唇を舐める。
 それだけで、ぞわりと嫌な感覚がダニーを襲い、思わずシンの袖を掴む。
「手を出したら…」
「君に嫌われたくないからね。手を出すなら…君を手に入れてからだよ」
 本命は君だもの。
 男の言葉にシンの瞳に益々冷徹な光が宿る。
「私が素直に従うとでも?」
「思わないなぁ。…でも、それが楽しいんだ」
 まるで無邪気な子供のように男は言う。
「失礼」
 そこにかかる声にシンとダニーの視線が行くと、眼鏡をかけ少し狡猾そうな男が佇んでいる。
 その男は悪徳弁護士として有名な男であると知っているダニーは眉間に皺を寄せる。
 相手にしたくは無いがここで無視しても厄介な男。
「何のようだ?」
「ああ、ただ…」
「邪魔だ。割り込むな」
 今までとは違うぞっとする冷たい男の声にダニーは目を開く。
 そして何か風が通り抜けた、と思った瞬間に前とは違う光景だと感じてしまい首を傾げる。
 だが数秒後に上がった悲鳴に、ダニーはやっとその弁護士の胴体と首が離れたのだと認識した。



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