THORNY PATH


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春を葬う花の雨

「支配をうばう黒」の続き。連載二話目。
(2004)




 犯罪というものはどれだけ犯す側が完璧だと思っていても必ず証拠が語ってくれるものだ。
 だが、今回の事件は少し様子が違った。
「……見つからねぇ」
 被害者の衣服やアクセサリーを調べても教会の物を調べても第三者どころか必ずあるはずの教会の関係者や参拝者の痕跡さえ無いのだ。
 その綺麗さっぱり無い痕跡に不快な感覚が背筋に走る。
「何か気持ち悪いわね」
 同じく証拠を調べていたエイデンも不快げに顔を顰める。
「結局解ったのってあのバラが少し珍しい品種ってことよね」
「珍しい?」
 ダニーは女性に贈る最もポピュラーな花であること以外バラに詳しくないが、犯罪現場で見たバラは妙に見覚えがあるのだが…
「日本で生まれたKUROSHINJUという品種らしいわ」
 ドアを開けた途端、黒紅。
「……ぁ」
「? 何?」
「いや…シンに誰かから贈られてきてた」
 そうだ。
 どうやってか床一面に敷き詰められ、シンが昨夜みたいに怒った顔をしていた。
「…ねえ、黒紅のバラの花言葉を知ってる?」
「いや…何だよ」
「死ぬまで恨みます。束縛。全てを求める」
「……」
 昨夜のことを考えると冗談だと気のせいだと笑い飛ばせない。
 何せ元捜査官で探偵という職業柄とあの容姿は昨夜の男以外にいても不思議じゃない。
「……電話してきていいか」
「行ってらっしゃい」
 心配になったダニーの言葉にエイデンは真剣に頷くので、ダニーも急いで白衣を脱ぐとラボから出て行く。
 それを見送ってから彼女は証拠の報告書に何も出なかったことを書いていく。
「エイデン」
 少ししてかけられる声に顔を上げるとマックの姿。
「どうだ?」
 問いかけられたのでダニーの証拠も含めて被害者のDNAか指紋しか出てこないことを告げる。
「犯人のが無いというのは解るが教会関係者のものも無いとは…」
 あの教会は第一発見者である神父をはじめ朝早くに掃除をするだけだという。
「誰かが綺麗に全ての痕跡を消していったということか。――プロかそれとも常習犯か…過去の類似したものを当たってみよう」
「はい」
 エイデンが頷くと、マックの携帯電話が鳴る。
 マックが耳に当てると、
「テイラーだ」
『マック。やっと被害者の身元が解った』
 携帯電話越しからフラックの声が聞こえ、被害者の名前と住所が告げられる。
「解ったすぐ行く」
 マックはそう答えると、通話を切りエイデンに視線を向ける。
「ダニーと共に過去の事件を調べてくれ。私はステラと共に被害者の家へ行く」
「解りました」
 マックの言葉に頷くと、マックはラボを出ると丁度こちらに向かってくるステラに声をかける。
「ステラ、被害者の身元がわかった」
「解ったわ。行きましょう」
 長年の経験によって何も言わなくても通じる二人は被害者の家を調べるためにそれぞれのキットを持って署の外へと向かった。




 エレベーターで一階に行きロビーに出るとガラス張りのドアから見覚えのある後ろ姿。
「ダニー?」
「それにシンよ」
 マックが訝る声を上げ、ダニーの傍にある美人の横顔にステラが声をあげる。
 そしてその二人の傍にもう一人。
 遠目なので表情はあまり伺えないが、金髪の髪に白い肌をした美形であることは解る。
「見覚えの無い顔だな」
「…本当。二人の知り合いかしら」
 二人はロビーを横切ってガラスのドアに手をかける。
 その時、

 ジャシュッ

 紅が、舞った。



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