Main春を葬う花の雨
「支配をうばう黒」の続きで、連載の事件もの…のつもり (2004) 朝早く発見したのは通いの神父だった。 そして神父から通報により警察の知るところとなったのだが… 「…何だ、これ」 連絡を受け現場へ駆けつけたダニーはその現場を見て目を開く。 そしてその言葉は、彼だけでなく仲間…または現場にいる警官の気持ちを如実に表していた。 教会の、祭壇の上。 そこに女性の遺体がある――までは普通の現場とも言えるだろう。 だが、女性は赤黒いドレスに包まれ、周りを黒紅のバラで飾られている。 極めつけには……彼女の表情は穏やかで、笑みさえ浮かんでいる。 それは異常でありながら…まるで芸術のような美があった。 ダニーはその現場に一瞬だけ呆然とするが、すぐに仕事に取り掛かるために身を引き締めた。 だがその後、彼らCSIはその場に来た検死官によって彼女の胸から腹にかけてバラが詰め込まれていることを知ることになる。 「こんな遺体、初めて見ました」 検死医であるシェルドン・ホークスはどう表したらいいのか解らないといった顔で言う。 「初めて、とは?」 マックの問いかけにホークスは被せていたシーツを取る。 そこには……空洞。 「バラが詰められていたとは聞いていたが…内臓が一つも無いな」 「はい。内臓は全て丁寧に取られています。ですから相当奥までバラが詰め込まれていました」 検死中にも見つけたバラにシェルドン・ホークスは息を吐く。 「彼女の死因は失血死です。…そしてこの傷は生前中のものです」 「生前中?」 それなら相当の痛みに苦しくて悲鳴さえあげるだろう。 だが、彼女の顔は穏やかだ。 「薬の類は?」 「それが…無いんです。睡眠薬も麻薬も。それに…これは刃物で付けられた傷ではありません」 見てくださいと言われ見ると刃物で体を傷つけた割には歪な形で、しかもノコギリなどを使用したにしては一つ一つが大きい。 「これは…」 「あまり考えてたくありませんが…恐らく歯型です。しかも大きさからして人の」 ホークスからの報告に、マックは無表情に女性の穏やかな顔を見つめた。 「あの教会は住み込みは一人もおらず、しかも昨日は所用で夜8時前には閉めたので異変に気づいたものは無し。また近所の住人からの目撃情報もあがっていない」 フラックはそこで言葉を切るが、ただ、と少し濁った言葉を続ける。 「関係はあるかは解らないが…昨夜の8時ごろにこの付近で血まみれの男が複数の人達に目撃されている」 血まみれの男と聞いてダニーは昨夜の出来事を思い出す。 そう言えば……昨夜のあの場所はここから近い。 「警察に連絡は無かったの?」 「それが、堂々としていたし…複数のFBI捜査官がその男に銃を向けていた光景から何かの撮影だと思ったらしい」 「…撮影でしょ」 「それなら許可がちゃんと出てるはずだわ」 エイデンの言葉にステラが言う。 「…その男ってどんな奴だよ」 ダニーはわざと何でもない様子を装って問いかけるとフラックがメモに視線を落とす。 「金髪で…よく解らないが赤系の目をした美形だったらしい」 もし、その目が薄いピンク色なら…間違いなくあの夜の男だ。 関係ない、のかもしれない。 だが、あの男の様子は…そしてあの時とその後のシンはただならぬものだった。 『ダニー。悪いけど、これDNA分析にかけてくれないかな』 今朝、ビニール袋に仕舞われて渡されたのは昨夜ダニーとシンの肌を拭った赤く汚れたハンカチ。 『いいけど……やっぱり何かあるのか』 『…仕事が終わったら話すよ』 忌々しげに言われた言葉に時間も迫っていたのでそれ以上は追求できずに出勤したのだ。 ダニーは絶対に聞き出そうと心に秘めると、そっとスーツのポケットを抑えた。 「…はい。……そうですか。ええ、ありがとうございます」 シンは礼を口にすると携帯電話を閉じると、考え込むように虚空を見つめる。 だがその目は、普段より何倍も鋭い。 「シン、殺気で重い」 所長のファルシンに言葉に顔を上げたシンは、笑う。 「そうですね。すいません」 「……何かあったのか?」 「ええ。…ちょっとした因縁です」 浮かぶ笑みは暗く好戦的なもの。 そんな笑みは初対面の時以来で、思わず苦笑が浮かぶ。 「お前にそんな顔をさせるとはある意味勇者だな」 「私より数段狂ってますよ」 殺気じみた笑みを見ても所長は何事も無さそうに受け止める。 「今日中に片付ける仕事はないから自由にしろ」 「…ありがとうございます。…ですが…」 所長の心遣いにシンは礼を口にするが、意味ありげに出入り口のドアに視線を移す。 「出かけるのは先になりそうですね」 シンの言葉の数秒後、事務所のインターホンが鳴る。 「客?」 「――恐らく、所長が大嫌いなお相手ですよ」 「…ほう」 ファルシンの目がすうっと細くなり敵意を示す。 それを見て笑いながら、シンは立ち上がりインターホンのマイクの電源を入れる。 「鍵は開いていますのでどうぞお入りください」 |