THORNY PATH


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支配をうばう黒

シンとダニーと血まみれの男
(2004)




「美味しかったね」
「ああ。本当、シンは美味い店を知ってるよな」
 細い路地に建てられた家庭的な料理を出す知る人ぞ知る名店から出たシンとダニーは笑う。
「人付き合いをしてると自然と耳に入ってくるものだよ」
 シンはにっこりと麗しく笑うと、ダニーと大通りへと向かう。
 だが、シンは急にその足を止める。
 それに習うようにダニーも足を止め、シンを訝る。
「シ…」
「黙って」
 珍しく切羽詰ったような声にダニーは口を閉じる。
 シンはダニーを庇うように一歩前へ出ると、さり気なく腰を落とす。
 と、視線の先にある闇からクスクスと漏れる笑い声。
「っ!?」
 それにダニーは今は無い銃を求める。
 何かは解らない。
 だがこの先にあるものは……ヤバイものだと本能が訴えかけてくる。
「――また稀なものを見つけたね」
 先にある『何か』が声を発する。
 それに益々本能が危険だと感じる。
「ご挨拶も姿も見せないとは随分ですね」
「ああ、ごめんね」
 クスクスと漏れる声と共に先にある電灯の下にゆっくりと姿が現れる。
 蜂蜜を溶かしたような金色の髪に薄桜色の目。
 美しく甘いマスクは異性をたちまち骨抜きにし、同性でも見惚れるほどの威力がある。
 だが今、彼の姿は何故かべっとりと紅で汚れている。
 ダニーはそれに息を呑み本能が正しいことを確信する。
「こんばんは、私の野バラ。それにダニー・メッサー」
「ダニーの名を呼ばないでください。穢れます」
 男の挨拶にシンが絶対零度の声音できっぱりと反論する。
「酷いなぁ」
 だが男は笑い声を漏らしながら赤く染まった自分の指を舐める。
 すの姿は異常で狂っているはずなのだが…美しいと感じさせるものがある。
「…何のようです?」
 見せ付ける態度にシンは笑みを浮かべながらも冷淡に問う。
「君に会いに来たんだ」
「楽しくない冗談ですね」
「ふふ」

 タン

「本気だって解ってるくせに」
 一体どうやってか……いつのまにかシンの傍にいる男。
「なっ!?」
 ダニーが驚きの声を上げると、男の目がダニーを捕らえる。
 途端、寒気が走り逃げ出したくなるが、その後にシンの笑顔を見て心が落ち着いていく。
 そこに響く笑い声。
 ダニーは鳥肌を抑えながら思わず男の方に視線を移すと間近に顔。
 心臓が、嫌な方に跳ねる。
「うん。やっぱりシンは稀有な人を選ぶなぁ」
「…オレはどこにでもいる人間だ」
「どこにでも、か」
 生暖かいぬるりとした感触が頬に感じて、息が詰まる。
「ふふ、自覚が無い所もイイね」
 男は目を細めるとさらに顔を近づけると艶やかな笑みを浮かべ、
「美味しそうだ」
「…『グラトニー』!」
 凛とした声と共に鋭い風きり音。
「怖い怖い」
 一瞬で大きく二人から離れた男は楽しげに目を細める。
 ダニーは無意識に詰めていた息を吐くと、シンを見て再び息を呑む。
 何故かシンの首筋に赤い痕がある。
「思いっきり締めてくれましたね」
「首が細いから簡単だったよ。それに、それくらいじゃ死なないこともよく知ってるしね」
 笑いを含んだ声音にシンの目が冷酷に光る。
 だが男はさらに楽しそうに笑うと、。
「――お迎えが来たようだから帰るね。また来るよ、私の野バラ」
「一生来ないでください」
 シンが辛辣に答えるが彼は笑ったまま闇に溶け込むように消えていった。





 騒がしい音が聞こえる。
 それで、ダニーは今まで音を聞く余裕さえ無かったことを思い知る。
 そして先ほどの薄桜色の目を思い出し自然と身震いする。
 あんな恐ろしい『存在』は始めてみるが……一体あれは…
「……ダニー」
「ぁ」
 声をかけられ振り向くと、シンの心配げな顔。
 それに安堵しながらも大丈夫だと笑いかけ…シンの首にある赤にダニーはすぐさま気遣わしげに首筋に触れる。
「シンこそ大丈夫か?」
「うん。絞められただけだし」
「だけって…」
 充分重要だ。
 ダニーの顔が益々心配げになる様に笑いかけて大丈夫だと口にし、ダニーの顎に指を当てて覗き込む。
「シン?」
「…やっぱり血だ」
 嫌そうな声にダニーは釣られるように頬に手を当て、ぬるりとした感触に指を見ると僅かにある光からも紅で鉄臭い匂いがする。
「これって…あいつのか?」
「違うはずだ」
 ダニーの問いかけにシンは否定すると、周りに視線をめぐらす。
 さて、一体何処にあるのか…
 シンは異変が無いか神経を張り巡らすが、今の所は何も無さそうだ。
 溜め息を一つ零すと、ダニーの方に向いて肩を叩く。
「帰ろう」
「え、あ、でも…いいのか? その…」
「大丈夫だよ。それよりもダニーは明日も仕事でしょ?」
 気晴らしに少しお酒飲んで寝ようとシンは安心させるように笑うと、ダニーの腕を取って帰路へと向かった。
「……成功しても失敗しても報告が来るでしょう」
 ダニーにも気づかれないようにぽつりと呟きを零しながら…



(Title:SBY)