Mainスピカを待つ夜
「ひらり舞うサヨナラ」後の深夜に。 (2004) シンが捜査官として関わる最後の事件が無事解決した。 彼の辞職にCSIを始めマイアミ・デイド署にいる者達を惜しませ、また噂ではマイアミにいるシンが関わった人々(犯罪者含む)も嘆いたらしい。 その夜、シンの送迎会が行われた。 時間が空いたCSI職員や警官たちがシンに話しかけながら酒を飲み交わし益々賑やかになっていく。 だが始まりがあれば終わりは当然やって来るもので、その数時間後にはお開きとなった。 酔いつぶれてしまった人々はまだ平気な人が送り届けたり次の店へと行く人も居る。 シンは二次会の誘いは丁重に断り、酔いつぶれてしまったスピードルをタクシーで送り届けるために共に後部座席に座る。 そして行き先を告げようと口を開け…閉じる。 「降ります」 にっこりと満面の笑みを浮かべながらそう宣言するとスピードルを連れて出ようとする。 だが、ドアはさっさと閉じられてしまい、タクシーは行き先も告げていないのに走り出す。 「酷いなぁ。きちんと送り届けるよ」 運転席から響く声。 シンは護るようにスピードルを抱き寄せる。 「手を出すつもりは無いんだけどな」 「つもりとは気が変わることもあるということです。貴方は信用できませんよ、『グラトニー』」 シンは冷たい眼差しを前方に向けながら辛辣に答えるのだが運転手はただ嬉しそうに笑う。 「本当だよ。ただ愛している野バラが無事勤めを果たしたことをお祝いしたいと思ってね」 「いりませんよ。…貴方にとっては嬉しいことなのかもしれませんが」 「そんなことないよ。本当、よくここまでもったね」 すごいと素直な響き。 シンはそれに「そうですか」と感情の無い声を見せるが、内心では彼がそういうことを予想していた。 自分が一体どんな道のりを歩いてきたか。 それをよく知っているのは悔しいことに亡き師以外では彼と彼の祖父だ。 そんな自分が警察に四年『も』いたなんてきっと予想できなかっただろう。 「それと」 バックミラーに見える薄桜色の目。 「君が新しくトリガーを作ったみたいだから見たくなったんだ」 その声にシンの笑みは益々美しく、その目は冷酷に輝く。 「貴方に見せるなんて勿体無くて出来ませんよ」 「相変わらず私の野バラはケチだ」 「貴方の一族と比べたら良い方でしょう」 それに自分は出し惜しみをしているんじゃない。 奪われないように護っているのだ。 その思いを込めて殺気を乗せると運転席の男は楽しげに笑う。 「君は本当に先代譲りだよね。宝石のように稀な人を好む」 「貴方方のような節操なしと同じにして欲しくありませんね」 「酷いなぁ。私にだって好みはあるよ」 鏡越しにかち合う視線。 「君を愛してる。誰よりも何よりもね」 「私は嫌いですよ。…私の引き金に手を出したら許しませんから」 「出さないよ」 タクシーが止まる。 周りに視線を向けると何度か言ったことのある今ここで眠っている彼の所在地だ。 「…何もかも調査済みですか」 「君のことなら何でもね」 白い手が伸びたかと思うと、思っても見ない速さでシンの首元に見えるチェーンが引っ張りあげられる。 「約束、護ってくれるんだね」 「約束というより脅迫でしたけどね」 チェーンの先に見える指輪。 二十歳の誕生日に交渉を持ちかけられてから安物のネックレスに指輪を通し、マイアミに移ってからも一応首にぶら下げていた。 「愛している君の大切な存在は私にとっても君の次に気に入ってるんだよ。君と私の間に唯一入り込んでも不快じゃない。それに」 ペロリと赤い舌が唇を舐める。 それにシンの殺気が強くなる。 「降ろしてもらいましょうか。これ以上付き合うつもりはありません」 「怖い怖い」 シンの殺気に怯むことなく、むしろ楽しげに言うと、タクシーのドアが開く。 男に警戒しながらスピードルを降ろして数歩離れると、閉まるドア。 「じゃあ…明日からまた宜しくね。野バラ」 男は楽しげにそう言うと、タクシーは去っていく。 それを見送ったシンは溜め息を一つ吐くと、スピードルをきちんとベッドで寝かせるために彼を抱えた。 (Title:SBY) |