THORNY PATH


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思春期の構造

姓が変わったばかり。こういう所だけ不器用な
(1990)




 艶やかな黒い髪。
 吸い込まれそうな黒い目。
 その顔に見合う細い体躯。
 か弱くて困難が襲えば今すぐにでも折れそうな姿。
 だが、その腕も心も誰よりも強いことを知っている。


「シン」
 名を呼ぶと大きな目が真っ直ぐに私を見つめる。
「何ですか? グリッソムさん」
 不思議そうに首を傾げる様はいつでも観察する癖がある私でさえも可愛いと思わせる。
 思わず手を伸ばして頭を撫でると嬉しそうな笑みが広がる。
 愛らしいけど誰よりも心が強い子。
 だが、だからこそ子供なのに大人顔負けに我慢し、全て一人でやりとげようとする子。
「今は君もグリッソムだろう」
「……ぅ」
 シンは言葉に詰まった後に、頬を赤らめる。
「そう…なんですけど……まだ慣れないんです…」
「敬語も禁止だ」
「う〜」
 益々困り、肌の赤みが増す。
 そんな一生懸命さに思わず笑みがこぼれてしまう。
「…面白がってません?」
「ほら、まただ」
「…絶対面白がってます」
 少し拗ねたような表情にグリッソムは宥めるようにさらりと頭を撫でる。
「そんな君は珍しいから、つい」
「……こういうことはダメなんですよね、私」
 シンは困ったように視線をさ迷わせた後、そっとグリッソムの手を取る。
「…もう少し待ってくれませんか?」
「構わないが…敬語を無くしてスキンシップももう少し出してくれるならな」
 日本人だからかそれとも甘えるのが苦手だからか、彼のスキンシップはあまり好きじゃない自分でも控えめすぎると思ってしまう。
「でもグリッソムさんはスキンシップ苦手じゃないですか」
「シンのは別だ」
 自分でも不思議なくらいにシンからのスキンシップは嫌いではない。
 心からの想いだと表しながら笑みを浮かべると、シンの頬に赤みが増す。
「……ありがとうございます」
 シンは腕を伸ばしてグリッソムを抱き締める。
「私も貴方といるのは大好きです」
 そしてふわりと美しい笑みを浮かべた。


***


 養子に入ったシンだけど、暫くはグリッソムという姓には慣れません。
 こういう所では不器用人間。
 そんな反応は珍しくて面白くてグリッソムから笑いが漏れたり。
 でも後に「義兄さん」と呼ぶことで落ち着いていきます。


***


「おかえりなさい、義兄さん」
 そう言って笑う。
 あの頃よりも砕けた、それだけに輝いている笑みを。
「仕事はもう終わったの?」
「ああ。…食事の準備をしていたのか」
「今からそのつもりだけど…」
「なら久しぶりに外へ行こうか」
「いいの?」
 少し困惑げに問われる声。
 大分心を許し、砕けた言い方も出来るようになったがやはりまだまだ遠慮しすぎる義弟だ。
「私が誘いたいんだ」
 グリッソムの手がシンのさらりと流れる髪を撫でる。
「――はい」
 それに仄かに頬を赤らめながらシンは嬉しそうに笑うと、
「じゃあすぐに準備するね」
 そう声をかけて踵を返した。



(Title:SBY)