THORNY PATH


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秤にかけた愛と嘘

 「全てをちかう紅」後の兄弟と黒紅のバラ
(1991)




 リビングへと続くドアを開ける。
 黒紅。
 突然飛び込んできた色彩にグリッソムは目を瞬かせる。
 いつものリビングの光景ではあるが、そのテーブルに大きな黒紅色のバラで作られた大きな花束がそこに存在していた。
 グリッソムはテーブルに近寄り、まるで仕事で遺体をじっくり見るかのような慎重さで花束を観察する。
 何故ならこの花束はどうやってか忽然と現れているからだ。
 自分が持って来た覚えは無いし、朝から大学に行って今は不在の弟であるシンが持ってきたものでもない。
 なら……このセキュリティが効いて念のために鍵もかけてある家に誰が?
 グリッソムはじっくりと花束を眺め、バラにはカードが添えられている以外には危険物の恐れがないことを確かめると、そっとカードを抜いて文面を見る。


『To my beloved W.Rose. You had a wonderful trigger.』


 W.Roseに引き金。
 まるで暗号のような文面に思わずそこから意味を見出そうとグリッソムは文面を見つめ…
「――あ、義兄さん。今日は早い…」
 呼ぶ声に振り向くと、シンのいつもの笑顔が一瞬だけだが凍る。
「んだね」
「シン?」
 思わず名を呼ぶと、にこりと浮かぶ笑み。
「…義兄さん。そのバラどうしたの?」
 ニコリと浮かぶ笑み。
 だがその笑みが僅かに強張り警戒が見えるのがグリッソムには解った。
「解らない。気づいたらあった」
「…そっか…不気味だから捨てようね」
 音もなく歩み寄ってきたシンは無造作に花束を掴んでゴミ箱に捨てる。
「それも」
 すっとグリッソムの手の中にあるカードへ手が伸びるが、グリッソムはさりげなく拒む仕草を見せる。
「…義兄さん?」
「シン。何を知ってる?」
「……何を、て?」
 不思議そうに傾げられる首。
 だがグリソムはそれに惑わされずにゴミ箱にあるバラを一瞥し、
「君にしてはいつもより乱暴だった」
「不気味だからね」
「何かあると思わなかったのか?」
「義兄さんのことだからきちんと調べたはずだと思って」
 だから大丈夫だと思ってとシンはどこか困ったような笑みを浮かべて答える。
 だがいつもより僅かにそこに浮かぶのは……
「――ならどうしてそんな嫌悪を見せる」
 義兄からの言葉にシンの漆黒の瞳が僅かに揺らぎ……そっと息を吐く。
「…実は差出人に心当たりがあるんだ。カードのW.RoseはWild Rose――野バラという勝手に付けられた愛称なんだ」
 シンは複雑な表情でそう言いながら脳裏に浮かぶのはバラを差し出し「こんにちは、私の野バラ」と笑う姿。
「…その相手は嫌いなのか」
「うん。……今まであった人の中で二番目に嫌いな人だよ」
 正確には、殺してやりたい、だけど。
 でも今ココで本音を吐露して義兄を心配させたくないシンは笑うと、今度こそカードを取り上げてゴミ箱に捨てた。



(Title:SBY)